札幌高等裁判所 昭和28年(く)13号 判決
按ずるに、被告事件につき裁判所が裁判権を有しないときは判決で公訴を棄却せねばならない(刑訴第三三八条)この判決は、有罪或は無罪を言渡す判決と同じく、被告事件の公判手続の終局としての裁判であつて、本案の審理に先立つて裁判権の有無を裁判せねばならぬとする規定は存しない。公判裁判所は公判手続が如何なる段階に進んだかを問わず、裁判権がないとの判断に達したときは口頭弁論を終結して公訴棄却の判決をなすべく、然らざる限り口頭弁論を進め、裁判に熟するのを待つて結審しそれぞれの判決をなすべきである。裁判権の有無は証拠調を待たず判断し得る場合もある。この場合には起訴状の朗読次で被告人及び弁護人の被告事件に対する陳述の手続が終れば結審することとなるが、そうでない限り証拠調の手続に進まねばならない。それ故、原裁判所の裁判長が訴訟の進行を促したのは、原裁判所が、起訴状のみによつては未だ裁判権なしとは判断し得ないとの見解を持つていると云つても差支はない。しかし、これは当該裁判官が関係法規の解釈によつてその結論に達したわけである。およそ、裁判官が訴訟の進展につれて被告事件について心証を形成し事案に対する判断をいだくことは職務上当然のことであつて、これを以て予断をいだくものと云うのは当らない。されば、原裁判所の裁判長が前記のとおり弁論の進行を促したのは訴訟指揮として極めて当然の処置と云うべく、これに対する異議を却下した原裁判所の決定も至当であつて、これを以て原裁判所の各裁判官が不公平な裁判をする虞があるなどと云うべき筋合ではない。本件抗告の理由もやはり、原裁判所における右の処分を不当とし、これによつて公平な裁判を期待し得ないと云うに外ならず、他の何の理由も示されていない。結局、本件忌避の申立は、公判裁判所の適法かつ適当な訴訟指揮をとらえて、独自の見解を以て、右裁判所を構成する裁判官全員が不公平な裁判をする虞ありとするものである。されば、本件忌避の申立は訴訟を遅延させる目的のみでされたことは明かという外はなく、この申立を却下した原決定は正当である。(最高裁判所昭和二十六年(す)第一〇九号同二十六年五月一一日第二小法廷判決参照)